認知行動療法
うつ病の認知行動療法(心理カウンセリング)
うつ病の治療法として、薬物療法が主体をなしますが、精神療法も効果が知られています。特に、うつ病の再発予防には効果的です。精神療法のなかでも「認知行動療法」があります。
うつ病の気分・行動の出現にはある一定のパターンがあります。例えば、Fさんの場合、上司からの命令で、T会社のB氏に会いに行くことになり出かけました。住所も電話番号も聞かずに大体の場所のことを教わり出かけた結果、会社の場所が分からず途方にくれました。周りの人に聞いても分かりません。上司に連絡をとろうとしてもつかまりません。このような時に、一体どういう考えが浮かぶでしょうか?「また、同じことを以前にもあった」、「なんて自分は駄目なんだろう」、「もっと、きちんと準備をしてくればこんなことにはならなかったろう」と考えるかも知れません。そう考えると、憂うつになります。さらに、「上司はなんでもっと詳しく場所のことを教えてくれなかったのだろう」と怒りや攻撃性が出現します。これから出向くはずの会社のB氏に会えないことにより、「仕事に支障が生じ大変なことになる」と恐怖や不安が湧いてきます。つまり、ある出来事があり、その結果、そのひとの特徴的な考え方で感情が出現し、それにより行動が生じるパターンが決まってしまいます。このような出来事から生じるパターンはうつ病に認められます。この場合は例えば、「ここまで歩いて探したのだから、もっと探してみよう」、「近所の交番で尋ねてみよう」、携帯電話があるのなら、「インターネットで会社を探してみよう」と考えると気が楽になります。また希望もでてきます。パターン的なネガティブな考えに頭が支配されないようにさせるのが、「認知行動療法」の特徴です。
うつ病の「認知行動療法」は症状の改善や服用薬物の減量およびうつ病の再発防止に役に立つのではないかと研究されています。
うつ病の認知行動療法の実際
「認知行動療法」は出来事⇔自動思考⇔感情⇔行動の相互関係に注目した方法です。
認知には、何かの出来事があった時に瞬間的に浮かぶイメージがあり「自動思考」と呼ばれています。「自動思考」が生まれるとそれによって、いろいろ気持が動き、行動することになります。ストレスに対して強い心を育てるにはネガティブな「自動思考」に気づいて、それに働きかけ、修正することが役に立ちます。
同じ体験をしても、それをどのようにとらえ、考えるかで、そのときに感じる気分はずいぶん違ってきます。体の反応や行動も違ってきます。「認知行動療法」は考えを柔軟にし、気分を軽くしてストレスを減らす手助けをします。ストレスがたまってうつ的になっているとき、私たちは自分・周囲・将来の3つに悲観的な考えを持ちやすくなります。このような時こそ、すこし立ち止まり、問題を見つめなおし、解決のドアを押したり引いたりして視点を変えてみると、また違った考えがみえてきます。
つらくなったときに頭に浮かぶ自動思考を現実に沿った柔軟なバランスのよい新しい考えに変えていくことで、そのときどきに感じるストレスを和らげる方法を学び、そして楽な気持でもっと自分らしくいきらえる可能性をもたらします。ここで、悪いのはその「人」でなく、「考え」です。「人」は変えられませんが、「考え」は変えられます。
「認知行動療法」の進め方。
原則として、50分以上の面接を16-20回行いますが、状態によって回数を変更することも可能です。面接の間には毎回、実際の生活のなかで行うホームワークが出されます。その課題はこの療法を受けている人が認知の歪みの回復を早めるもので、治療者と一緒になって話し合いながら決めていきます。
1.まずストレスに気づいて、問題を整理します。
問題領域リストの例
①心理・精神症状の問題
②対人関係の問題
③職業上・学業上の問題
④健康の問題
⑤経済的な問題
⑥余暇・娯楽の問題
⑦その他
2.その問題がどのような状況で起き、その結果どのような感情を引き起こしているのか調べます。
3.自動思考がどのような状況で起き、その結果どのような感情をひきおこしおこしているのか調べます。
4.自動思考のくせに気づきます。
5.自動思考の内容と現実のズレに注目して、自由な視点で現実に沿った柔軟なものの見方に変える練習をします。
6.考え方が変わってきたら問題を解決する方法や人間関係を改善する方法も練習します。
不眠症の認知行動療法
不眠症の認知行動療法とはうつ病の認知行動療法と本質的にはおなじです。簡単に言えば、睡眠に関する思考や行動のパターンを見直して、自分がめざす状態になるようにパターンを変えて行く方法をとることです。
まず、自分の状態に気づき、気づいた後に、いままでと違うパターンを試してみて、よいパターンを身に着けるという三つの段階で進めて行きます。
不眠症の「認知行動療法」は症状の改善や服用薬物の減量および不眠症の再発防止に役に立つのではないかと研究されています。
不眠症の認知行動療法の実際
1970年代に海外で生まれた手法で、2週間に1度クリニックに来ていただき、原則として、50分の面接を6回おこないますが、状態によって回数を変更することも可能です。生活習慣・思考パターン・体の状態、この3つを整えて「眠れる習慣」を身につけていただきます。治療工程の中で、重要になるのは睡眠スケジュールの管理です。不眠の場合、布団に入っている時間と実際に眠っている時間に大きなかい離がうまれています。そのため「睡眠効率」を測定することから治療は始まります。自分で睡眠記録をつけ、寝ている時間の1週間平均を算出します。たとえば、布団に10時間入っていて、実際は6時間睡眠の場合、60%の「睡眠効率」となります。自分の「睡眠効率」が分かったら、それに合わせて睡眠の状況を改善させていきます。「睡眠効率」60%の場合、布団に入っている時間を「実際の睡眠時間プラス30分」に設定しますので、この場合は「6時間プラス30分」と設定します。夜23時に就寝した場合、起床は5時半として、これを1週間続けます。「睡眠効率」は85%が基準値となり、それより数値が上の時は布団に入っている時間を15分延ばし、79%以下の人は逆に布団に入っている時間を15分縮めて、1週間続けます。最初は、睡眠時間を削られたと感じ、厳しいと思われますが、覚醒しているのに布団の中に長時間いると、体の疲労は取れる一方で「寝なくては」という焦りが出てくるので、かい離は少ない方がよいのです。
その他の精神障害の認知行動療法
不安障害(パニック障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害など)にも認知行動療法が有効といわれています。認知行動療法の実際はうつ病の認知行動療法と基本は同じです。