神経症
パニック障害
皆さんや、身近の人の中には「パニック障害」と診断され、治療を受けられておられる方がいらっしゃられるのではないでしょうか。
「パニック障害」は「不安障害」に属し、「パニック発作」だけのものと、「パニック発作」に「広場恐怖」を伴うものがあります。
まず「パニック発作」について解説しましょう。「パニック発作」とは突然、なんの前触れもなく、強い恐怖または不快を感じ、症状として、動悸、発汗、身震い、息苦しさ、窒息感、胸痛、吐き気、めまい感、気が遠くなる感じ、現実感消失、コントールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖、死ぬのではないかという恐怖、感覚麻痺、またはうずき感、冷感または熱感などが出現します。
次に「広場恐怖」について解説します。「広場恐怖」とは、逃げるに逃げられないような場所や状況で「パニック発作」や「パニック様症状」がおきたときに、助けが得られないような場所や状況にいることに対しての不安や恐怖のことをいいます。具体的には、家の外にひとりでいること、混雑のなかにいること、列に並んでいること、橋の上にいること、バス、列車、または自動車で移動していることなどがあげられます。ここで、注意しなければならないことは1つ、または2~3の特定の場所や状況の場合は「広場恐怖」とはいわず、特定の恐怖症と診断されます。さらに、それらの状況や場所を意図的に避けているか、「パニック障害」や「パニック様症状」がおこるのではないかという強い不安や恐怖に耐えながら生活している状態や、誰かが常に傍にいることを必要としていることが条件になります。
「パニック障害」に対しての治療法は医師がおこなう薬物療法と患者さん本人がおこなう行動療法があります。薬物療法としては、日本では、べンゾジアゼピン系抗不安薬、あるいはセロトニン再吸収阻害薬や場合によってはある種の抗精神病薬、あるいは、べンゾジアゼピン系抗不安薬とセロトニン再吸収阻害薬の併用をおこないます。行動療法としては、行動できる範囲を拡げることを目的とします。この薬物療法と行動療法を同時におこなうことにより効果があがります。症状が改善する時期は個人差があります。なかなか良くならない場合でもあせらず着実に治療を受けることをお勧めします。
外傷後ストレス障害(PTSD)と急性ストレス障害
この精神障害は米国のベトナム戦争帰還兵がだいぶ時間がたっても戦争の怖さをおもいだしたり、悪夢に悩まされることで注目されました。私の患者さんの中でも、工場の死傷事故や、交通事故が原因でなった方もおられます。
「PTSD」とは、実際に死ぬような、あるいは重症を負うような体験をしたり、自分や他人が生命の危機にさらされたときや目撃したときがあり、その人の反応は強い恐怖や震えや無力感などであらわれることが必要になります。
また、その外傷の出来事を繰り返し辛い気持で、あるいは夢でおもいだします。その結果、外傷的な出来事を再び起こっているように行動したり、感じたりします(フラッシュバックともいいます)。出来事と似たような場合に直面したときに、精神的あるいは肉体的に反応を示します。
さらに、その出来事と関連した会話、考え、感情、場所や人物を避けようとします。また、出来事の一部を思い出せなくなったりします。大切な会合や活動に対して関心が薄れたり、参加が少なくなります。他の人とも疎遠になったり、疎外感も感じます。感情が薄っぺらになります。将来に対して現実的な展望をもてなくなります。
また、出来事以前には存在しなかった入眠困難や中途覚醒、イライラや怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、過剰に驚く反応があげられます。
これらの症状は1か月以上続くこと、およびそのことによって日常生活に大きな支障をきたすことも必須となります。
ここで注意しなければならないことは、「PTSD」という診断が安易に用いられている傾向があります。「PTSD」を診断するときには、あくまで最初の必要条件が必須となります。
次に、「急性ストレス障害」についてお話します。この障害の診断に関してはほぼ、「PTSD」の診断内容と同じですが、持続期間が2日間から4週間と限定されます。また、発症時期も外傷出来事から4週間以内におこると定義されています。
治療法ですが、「急性ストレス障害」に関しては抗不安薬や抗うつ薬が著効します。尤も自然に回復す場合もみとめられます。「PTSD」の治療に関しては、抗不安薬や抗うつ薬を主体とした薬物療法と精神療法の併用がおこなわれています。辛抱強く治療を受けることをおすすめいたします。私の経験でも数年かかって改善した方がおられます。
適応障害
職場、学校や家庭で問題克服できない程のおおきなストレスを浴びることにより、急性の反応として不安・抑うつ状態になる場合があります。その原因がすぐに消失すれば、精神的にも回復が早くみられますが、なかなかそうはいきません。これを、適応障害といいます。就職、転職、入学、結婚など環境が変わり、強いストレスを浴びてから3ヶ月以内に発症します。昔は、東大などの有名校に入ったはよいが、5月の連休明けには登校拒否になってしまう学生の問題が報じられていました。5月病という病名までつけられていました。また、成田離婚といいって新婚旅行から帰国したらすぐに新婦は実家に帰ってしまうことなども報じられていました。これらの多くは、適応障害という診断がつくと考えられます。それが、長引いてしまうとうつ病になります。新入社員、転属などには最初の3ヶ月は特に注意をはらって見守ってあげることが必要でしょう。
社会(交)不安障害
社会(交)恐怖ともいいます。対人恐怖症もこれに属します。よく知らない人に会ったり、いろいろな集団に入らなければならないことを、極度に不安におちいったり、恐怖に感じたりすることです。そこでは、上手く話せず、あるいはきちんとしたことができず、自分が恥をかかされるのではないか、恥ずかしい思いをさせられるのではないかとおそれを抱きます。そういう状況におかれると、必ず、強い不安や恐怖や、不安発作、あるいはパニック発作を起こすことになります。本人はこういう恐怖が過剰であること、または不合理であることを認識しています。こういう状況はできる限り、避けているか、それができない場合は耐え忍んでいます。そういう状態はその人の社会的生活に支障をきたしています。欧米では社会性や社交性を大切にします。たとえば、週末には各家庭でホームパーティーを開いたり、呼ばれたりするのが習慣になっています。そいう付き合いができないと人間関係が上手く行きません。日本でも寄り合いなどがありますが、むしろ、現在では、女性においてはPTAや子供関係の集まり、男性では会社での会議などに支障をきたしています。この社会恐怖に対しての薬物療法も認められています。
強迫性障害
家を出た時、鍵をかけ忘れたのではないか、コンロの火を消し忘れたのではないかと、もう一度確認するために、家に戻り、確認してみると、鍵は掛けてあるは、火は消してあるということを経験した人も多いのではないかと思います。こういう確認する症状を強迫症状といいます。脅迫ではありません。その確認をしたくなることや、同じ考えが浮かんでくることを強迫観念といいます。実際に確認する行動を何回も繰り返す行為を強迫行為といいます。この強迫観念や行為は、原始的な症状のひとつで、たとえば、今まで母親からの愛情を独り占めしてきた子供に、弟や妹ができて、注意がそちらの方に行ってしまい、その子供が下の弟や妹に愛情が奪われたと思ってしまうときなど、何回をトイレにいかないと済まない状態になることがあります。もっとも、この場合はほとんど一過性で自然に治ります。
この強迫観念や強迫行動が仕事、学業や家庭での生活に支障をきたすと強迫性障害になります。本人はこの、強迫思考や行為は不自然と思っており、止めようと思いますができず、苦悩します。実際、トイレから出てきて、手を洗う際にも、何回も洗わざるを得ず、しまいには、手の皮がむけてしまうこともあります。また、朝、出勤しなければならないのに、強迫的な行為がなかなか終わらず、家から出られない場合もあります。最もひどい状態では、がんじがらめの状態で動けなくなることさえあります。幸いにも、最近、この強迫性障害に効く薬も登場してきました。強迫性障害は自覚があることから大きく神経症の範疇に入っていますが、自覚症状がないときには、統合失調症も疑われます。
全般性不安障害
不安の対象がある特定のものに対して抱く場合は恐怖といいます。たとえば、高いところが怖い・不安なときには高所恐怖症といい、デパートのトイレを不潔と感じて入れない場合は不潔恐怖といいます。強迫性障害には不潔恐怖がよくみられます。心配の対象が漠然としたものは不安といいます。仕事、学業や家庭での多くの出来事または活動で必要以上に不安に感じる、身の置き場がなくいらいらする状態で障害をきたす時には、全般性不安障害と診断します。ときには、不安が高じて呼吸が苦しくなることや、先ほど説明した強迫性観念や行為がみられる場合もあります。従来は不安神経症と呼ばれていたものです
現代人は少なからず、この傾向を持っています。時代の背景が大きく影響するようです。
身体表現性障害
身体的検査をしても特別異常がないのに、検査を何回もくりかえしたり、執拗な身体的訴えがあります。この障害を身体表現性障害といいます。これは大きく「身体化障害」と「心気障害」とに分類します。
「身体化障害」について解説します。
胃腸症状(痛み、おくび、嘔吐、悪心など)や異常な皮膚感覚(掻痒感、灼熱感、うずき、しびれ、痛みなど)およびできものが最もよくみられます。性および月経に関する訴えもよくあります。長年にわたり、さまざまな医療機関を訪れますが、異常は指摘されません。なかには、無用な手術を受ける場合もあります。顕著な抑うつと不安がしばしば存在し、特別な治療を要することがあります。経過は慢性的で動揺的(変化する)です。
つまり、症状はいろいろなところに見られ、その場所は移ります。しばしば、社会的や対人関係的および家族的にも大きな支障をきたし、破たんすることもあります。男性よりも女性に多く、通常は成人早期に始まります。
「心気障害」について解説します。
くりかえされる検索や検査により、医学的には何ら適切な身体的な説明ができないにもかかわらず、現在の症状の原因に少なくとも1つは重篤な身体的疾病が存在するという頑固な信念を持ちます。あるいは奇形や醜形があるだろうという頑固なとらわれがあります。
症状の原因に身体疾患や異常が存在しないという、何人かの医師が言っても信じません。性差はありません。50歳以前の発症が多く、社会能力の低下は様々です。
解離性障害(てんかん性障害)
かってはヒステリーとよばれていました。ヒステリーの語源は、女性に特有の疾患との誤解から子宮に原因があると誤って信じられていたため、古典ギリシア語で「子宮」を意味する言葉から名づけられました。一般の人がヒステリーと言う場合、単に短気であることや、興奮して感情のコントロールができなくなる様子のことをさすことが多いとおもいます。特に、女性などが感情的になって、キーキーと甲高く、自分勝手なことをわめき散らしてはた迷惑な状態のイメージが浮かぶでしょう。また、そういう場面に直面することが最近、多くなってきているように私は感じています。
さて、精神医学的には、以上のような言葉の使用状況から、ヒステリーという用い方はしておりません「解離性障害」を用います。それについてご説明申し上げます。「解離性障害」とは「解離性健忘」「解離性遁走」「解離性昏迷」「トランスおよび憑依障害」「運動および感覚の解離性障害」「多重人格障害」などに大別されます。「解離性健忘」とはトラウマ的健忘や強いストレスと関係しておこる全体的あるいは部分的な健忘のことをいいます。青木が原は富士山麓にあり自殺で有名なところですが、自殺未遂で保護さされた方のなかには、自殺行為に及んだ前後のことを忘れていることが報告されています。すなわち、辛く苦しい思い出は忘れてしまうほうが都合がよいために起こるというので理解をされています。したがって、その思い出をやがて思い出す時には嫌なことを思い出すわけですから苦痛を伴うことも知られています。よく、テレビのサスペンスドラマなどでこの光景はみられます。「解離性遁走」とは、苦痛をともなうストレスがあったときに関連して全体的あるいは部分的な健忘があり、日常では考えられない場所への旅をしていることで、その間は普通に他人と接触して、まとまった行動をとることをいいます。「解離性昏迷」とは、苦痛をともなうストレスがあったときに関連して、外界の反応に対して精神的および身体的に反応がないか、あるいはかなり減弱している状態をいいます。具体的には、じっとして動かない状態になります。「トランスおよび憑依障害」とは、いわゆる、神様や動物にとりつかれる状態のことをいいます。最近はあまりみませんが、まるできつねがとりついたかのような「きつねつき」などがあります。「運動および感覚の解離性障害」とは、苦痛をともなうストレスがあったときに関連して、体や体の一部が動かなくなってしまうことです。具体的には、奇妙な歩き方をしたり、介助なしでは歩けなくなったり、声が出ななくなったり、あるいは、おおげさな動揺や振えが見られたりする。ときには、感覚がなくなったり、けいれんが出現することもあります。「多重人格障害」とは、自分のなかに2人以上のひとが存在しており、自分の中のひとはお互いに他のひとの存在に気がつかない状態です。多くは、よくあらわれるひとがいて、そのひとと交代して他のひとが出現します。「多重人格障害」を「解離性障害」に属さない立場をとる精神科医もいますが、現在精神障害の国際分類では「解離性障害」に属しています。