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認知症

認知症とは

 人類が木の上から地上で暮らし始めて、集団で複雑な社会生活をおくるようになり、サルより脳の大きさが3倍になり、大脳皮質連合野、特に前頭前野が発達してきました。この部位は思考と判断、注意といった高等な作業を司っている部位です。ホモサピエンスはラテン語で「賢い人」という意味です。人類はこの前頭前野の機能を使って、社会生活をこなしています。この機能が障害を受けたときに、脳の障害が記憶障害、つまり認知症としてあらわれると考えます。
具体的には、WHOの定めるICD-10での認知症ガイドラインでは以下のごとく記載されています。
1.生活に支障を生じるほどの記憶と思考の障害
2.エピソード記憶、特に近時記憶の障害
3.思考の判断の障害
4.注意集中・分散の障害
5.意識清明
6.6か月以上の障害継続
古い昔のことはよく覚えていますが、数分から数時間前のエピソードを覚えていないことが特徴です。これを近時記憶の障害といいます。
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)では「自分が物忘れすることを忘れているような態度」が認められます。これを「内省能力の減退」や「病態失認的態度」といいます。これが社会生活に支障をきたす原因となります。近年、診療や診断技術の進歩に伴い、比較的早期に認知症の診断がされるようになりました。2000年では改訂長谷川式簡易知能評価スケールでは20点以下が認知症の診断基準でしたが、最近では25点でも認知症と診断されるケースも認められるようになってきました。また、どのくらいで、あるいはどの時点で診断を告げるかどうかの難しくなってきています。長期高齢化の社会で、生き残ったひとだけが認知症になって最後のときを迎えるようになってきました。
 

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)

 認知症の原因疾患は、アルツハイマー型認知症は50%、脳血管性認知症とレビー小体型認知症はそれぞれ15%、その他20%である。そのなかで最も多いアルツハイマー型認知症について解説します。
この疾患は老化性疾患であり、50代頃から健忘症から徐々に発症してきます。進行性で多少の波はあるものの、5~10年の経過で寝たきりから大脳機能の喪失に至ります。高齢および女性で発症頻度は増加します。新しい事を覚える記名力の障害と場所や居場所が分からなくなる失見当式が必ずあります。これらが背景因子となって、妄想や徘徊などの異常行動・思考が認められます。大脳皮質連合野(特に、前頭前野)の障害により、思考、判断、実行、注意などが障害されますが、病識が欠如するため、あるいは認知の障害を認めたくないために、人前ではニコニコと愛そうが良く、作り話や言い訳をして取り繕うのが特徴です。初期には神経学的には異常は認めにくいのが特徴である。
アルツハイマー型認知症患者の脳を解剖すると、脳細胞外にベータ蛋白が細胞内にタウ蛋白がたまり脳細胞の壊死が認められます。特殊染色するとベータ蛋白が丸く大きな形になって電子顕微鏡でみられ、老人班とよばれます。タウ蛋白はラセン形になっておりこれを神経原線維変化といいます。この両者が認められるのが特徴です。
 

アルツハイマー型認知症の診断と薬物療法の進歩

  認知症、特にアルツハイマー型認知症に関して、新しい診断法が改開発されてきています。アルツハイマー型認知症はアミロイド蛋白が脳に異常に蓄積されそのために脳細胞の壊死がおこり様々な認知機能障害をおこします。そのアミロイド蛋白の異常蓄積をPETという脳を立体的に撮影する装置で検知する方法です。アルツハイマー型認知症の初期症状としては、記憶障害あるいは認知障害を主とした主症状であること、進行は緩徐で不可逆的あること、神経学的所見がみられないがあげられます。また、症状は大きく二つに分かれます。中核症状と辺縁症状です。中核症状というのは認知障害で、記憶障害、服が着れない等の失行、場所や時間を間違える等の見当識障害、言葉がでてこない等の失語、子供の顔を忘れてしまう等の失認、物事を考えて行えなくなる等の実行機能障害を含みます。辺縁症状は、妄想、幻覚、抑うつ、無気力、暴力、不穏、徘徊、攻撃性、不安などを含みます。したがって、アルツハイマー型認知症の治療は中核症状と辺縁症状に対しておこないます。アルツハイマー型認知症の主体は中核症状ですので、まずアルツハイマー型認知症と診断したら抗認知症薬を用います。日本では今まではドネペジルという薬しか使用できませんでしたが、ガランタミン、リバスチグミンといったドネペジルと薬理作用の似たアセチルコリン再吸収阻害薬を有する抗認知症薬が使用できるようになりました。ドネペジルでは副作用が強く服用できないときでも抗認知症薬が使用できる機会が増えました。そのなかでもリバスチグミンは貼り薬ですので経口服用できない人にも使用できるようになりました。また、メマンチンというアセチルコリン再吸収阻害薬とは違うNMDA受容体拮抗薬という認知症薬も使えるようになりました。興奮などの辺縁症状にも効果があるとされています。また、アセチルコリン再吸収阻害薬とメマンチンを併用使用もできるようになりました。日常生活に支障をきたす辺縁症状には米国ではあまりおすすめしておりませんが、興奮を抑制させる抗精神病薬などが使用されています。また、まだ研究段階ですが、前述した異常なアミロイド蛋白蓄積を予防させるような薬物や違うタイプの抗認知症薬等も開発されつつあります。
 

レビー小体型認知症

 アルツハイマー型認知症に次いで多いのが、レビー小体型認知症です。
診断には、まず認知症があることが前提となります。注意や覚醒レベルの変動を伴う認知症の動揺、あるいは現実的で詳細な内容の幻視が繰り返される、あるいはパーキンソンニズムのうち、2つあればほぼ確定、1つあれば可能性となります。REM睡眠行動障害、抗精神病薬に対する過敏性の亢進、繰り返す転倒と失神、起立性低血圧などの自律神経障害、脳血流SPECT/PETで後頭葉の取り込み低下、MIBG心筋シンチの取り込み低下のどれかがあれば診断を確かにします。
 初発症状として自律神経症状の「便秘」が出現します。また、半数ぐらいにうつ症状が認められます。現実的な幻視に反応する行動が伴うことがしばしばあります。また、身近な人を他人が入れ変わっているという誤認妄想を抱くことがあります。体が硬くなる動きが悪くなるなどのパーキンソンニズムがあとで出現することがあります。典型的なそれと違って、最初、体の硬さを感じますが徐々に硬さが改善されるのが特徴です。診断を補助する症状としては、夢(悪夢)を見ているときに、夢の中で格闘しているのみならず、実際に異常行動を起こしてしまう、REM睡眠行動障害があります。また、抗精神病薬を主とする中枢神経に作用する薬物に過敏になり、せん妄などの意識障害を起こしやすくなります。失神や転倒なども頻繁に認められます。レビー小体型認知症は薬物治療の効果が認められます。
最近、パーキンソン病に伴う認知症もレビー小体型認知症の範疇と考えられています。
 

脳血管性認知症

 レビー小体型認知症とほぼ頻度は同じくして発症する認知症として脳血管性認知症があります。脳血管性認知症の診断基準は、認知症が存在すること、脳血管障害が存在すること、認知症の原因が脳血管障害であることが必須となります。しかし、脳血管障害がおきてしばらくしてから認知症が認められるなど、認知症の原因が脳血管障害であることの証明はむずかしいため、実際には、次の条件があれば脳血管性認知症と診断されます。脳血管病変部位は、白質や基底核病変が主であること、記憶障害や皮質症状がアルツハイマー型認知症に比較して軽度である一方、パーキンソン症状、歩行障害、構音障害、嚥下障害や遂行機能障害(目的を持った行動や動作の遂行が困難な状態)が顕著であること、症状の発症はまれに急激だが、多くは緩徐に階段状に進行することがあげられます。そして、最終的には画像診断などから、鑑別診断をおこなって、脳血管性認知症と診断します。
 

前頭側頭部型認知症

 上記の認知症ほどではありませんが、大脳の前頭部や側頭部の限局された部位の委縮でおこる認知症を、従来ピック病と言っていましたが、解剖所見を待たなければ診断できないために、臨床症状から次のように分類診断されるようになっています。
1.前頭側頭部型認知症:前頭葉主体の委縮に伴い、抑制のとれた行動や人格の変化といった前頭葉症状がめだちます。一般的に見られます。
2.進行性非流暢性失語:左前頭葉運動性言語中枢(ブロッカ野)近傍の委縮で、進行が緩徐な運動性失語で始まります。
3.意味性認知症:左側頭葉委縮の場合は見たものや聞いたものが分からないといった語義失語が認められ、右側頭葉委縮の場合は家族などの熟知した顔を見てもそれが誰だか分からないといった相貌失認が認められます。
 

進行性核上性麻痺

 前頭側頭部型認知症より頻度は多くありません。パーキンソ病と同じような動作緩慢や歩行障害があり、進行すると認知症が認められ、さらには、嚥下困難や構音障害が出現します。上下方向に注視させると、眼球が垂直方向、特に下方に動かないのが特徴です。